« 日直終わります。 | トップページ | あ、日付が変わってしまった! »

2005.03.22

単身赴任の脳卒中患者

今日は、くも膜下出血の緊急手術だった。
 仙台に家族を残し、当地に営業所長として単身赴任をしている男性が、朝方会社で頭痛と吐き気で発症し、救急車で運ばれてきた。すぐに家族に連絡をとった。奥さんが高速バスを使ってこちらにむかうという。
幸い患者さんは意識がハッキリしていたので、まず脳血管撮影の説明と承諾書を本人からとり、病名を告げた。しかし、その後は、脳動脈瘤の再破裂を防ぐために患者は薬で鎮静させた。
 脳血管撮影が始まる直前に患者の仙台の自宅に電話すると、娘さんがでて奥さんはこちらに向かうところとのこと。時間を計算するとそれから病院着まで4時間くらいかかってしまう。患者さんには鎮静剤を使っているので、手術の説明および同意書を本人から得ることができない。奥さんと連絡が取れた。自分が到着するのを待たずに必要なら手術を進めてほしい、とのこと。そこで、電話口で正式な手術同意書を作成しながら、私が書いていることを一つ一つ説明し、さらに控え室で待機している会社の同僚にそれを見せて同意書を代筆してもらうがそれでよいか?と確認。幸い(?)奥さんのお母さんがくも膜下出血で手術を受けた経験があったため、くも膜下出血や脳の手術については少し知識をお持ちであった。よって、手術の同意(informed consent)は、本人ではなく電話での奥さんとの口頭でのやり取りを紙に記載してそれをこちらにいる会社の人に見てもらい代筆してもらって、(順番は正しくないが)手術終了後奥さんにその紙を再び見せて説明し直す、ということで了解していただいた。
 奥さんが来られるのを待てない訳ではない。しかし、ただ寝かせて待っていて到着までに再破裂を起こしたりすれば後悔が残る。脳動脈瘤の再破裂は、破裂当日がもっとも多いのだ。また、奥さんの到着を待って手術を始めればおそらく手術開始が18時過ぎで手術終了は22時過ぎ。ICU帰室は23時頃になってしまう。結局、麻酔科の都合もあって、脳血管撮影後、手術室に入ったのは15時。手術開始は16時前、手術終了が20時。ICU帰室は2030過ぎ、奥さんへの説明は21時になってしまったが、手術は大過なく破裂脳動脈瘤はチタン製脳動脈瘤クリップで確実に処理された。結構出血量が多く、くも膜下「血腫」のように部厚く脳を圧迫している部分もあったので、可及的に丹念に取り除いて「脳血管れん縮」をなるべく起こしにくいように気をつけて手術を終了した。
 術後の患者さんの状態は順調で、奥さんもほっとしておられた。
 昨年は、北海道は釧路の方の出身の方で当地で一人暮らし、家族はおらず親類が釧路にいるのみ、というくも膜下出血の方も手術したが、その時も電話で一番近い親類である姪の旦那に説明し、こちらの会社の仲間に紙に書いて同意書を作成し、それを釧路にファックスして手術同意書として手術をしたことがあった。その親類は、結局仕事もあるし空の便も直通がないので、2日後に丸一日かけてこちらまで来ていただいた。
 単身赴任の脳卒中、身寄りのない一人暮らしの脳卒中の手術や緊急検査などの同意書には、このように困ることがある。形式的に言えば、本人の同意のない同意書というのは正しいものではない。ただ脳卒中などのように、本人にきちんと物事を把握し判断する能力が欠けていると考えられる場合は、「臨機応変」これにつきる。要は、我々がやっていることが(誰が見ても常識的に考えて)患者のためになることであるならば、形式にとらわれることはないと思う。ただ、4月から施行される「個人情報保護法」の観点から言えば、本人の了解なしに会社の同僚に病状や手術の説明をするというのは問題があるかもしれない。奥さんに説明したからといっても、会社の同僚や奥さんが患者の味方とは限らない事例がありうるからだ。普通は、「家族」は患者の味方、仲間であろう。しかし、そうでない場合もあり得ることを想定して、我々は事に当たらなねばならないことも肝に銘じておくべきであろう。
 ま〜、難しいことはともかく、手術がうまくいってよかった、、、

|

« 日直終わります。 | トップページ | あ、日付が変わってしまった! »

コメント

一般の方には、歌手の徳○英○さんがこの病になってから有名になってしまいましたね。すでにご存知でしょうが、私も面識ある脳神経外科医のDr. Kがこういうサイトを持っています。
http://www003.upp.so-net.ne.jp/moyamoya/

Moyamoya diseaseは、世界的にも通じる名称で、私の上司、師である教授の師匠であった、故鈴木二郎東北大学脳神経外科教授が命名したものです。
病気に負けないでくださいね。

投稿: balaine | 2005.03.23 13:42

リアルさはさておき、時折、患者さんの情報をさらしているように見える点が気になるところです。

投稿: 感想です | 2005.03.24 02:02

balaineさん、レスありがとうございます。サイトはよく見てました。最初の担当医師からの説明ではよくわからなかったことがこのDr.Kのサイトでよく理解でき、納得でできたのです。今まで激しく多忙だった生活を普通にすればいいのかな、ぐらいな気持ちでいるようにしてます。その“普通”の程度が微妙なんですけどネ。

投稿: shangri-la | 2005.03.26 12:39

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 単身赴任の脳卒中患者:

» ひとりで脳卒中になったら [つれづれなる闘いの日々]
病気は自分がなって初めてそれが何たるものかを知る。 私だって最初は自分が「脳梗塞 [続きを読む]

受信: 2005.03.23 12:50

« 日直終わります。 | トップページ | あ、日付が変わってしまった! »