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2005.02.15

今年一番の手術?

ICdorsal050214昨日書きかけたこと。
まだ2月なのに「今年一番」と言えるかどうかわからないので、Suregry of the year ?と疑問符をつけて置いた。
くも膜下出血の手術だった。原因は、脳動脈瘤の破裂。原因として最も多い。場所は右の内頸動脈の瘤。これも1,2番目に多い場所。普通のように思える。しかし、頸動脈が大動脈から分かれて頚を通って頭の底を通り(頭蓋底という)脳の中に入ってすぐの、動脈の前面内側向きのもので、IC(internal carotid=内頸動脈) dorsal aneurysmとかIC anterior surface aneurysmと呼ばれるものである。珍しくはないが多くもない。しかも右の視神経にくっついていると思われ、頭蓋底の骨を貫いてすぐの所にあるためクリップが掛けにくいことが術前から予測された。
そこで、まず麻酔がかかった後、右の頚部を切開して、総頚ー外頚・内頚動脈の分岐部を出しここに血管テープをかけていつでも頚の部分(頭より心臓側)で血流を止められるように準備。続いて頭の手術に移り、いつものようにまず視神経・内頸動脈の部分にアプローチするのではなく、中大脳動脈側から内頸動脈に近づいていくような方法をとって慎重にも慎重を重ねて、破裂部位に接近していった。破裂した脳動脈瘤はやはり予測通り視神経管、内頸動脈の遠位硬膜輪という部分に接するように存在した。専門用語だらけでわかりにくいと思う。
 平たく言うと、床下に埋めてある土管を修理するため床板を外して破損部を探したところ、壁の下を通ってくるところにあったため、破損部位の全貌がつかめないのである。こういう場合はどうするかというと、壁を外しコンクリートを壊して、土管の破損部位が全部見えるようにしなければ補修が出来ない。
土管ならば、土管そのものを交換すれば良いだろうが、脳の中の太い血管である内頸動脈である。破れた部分を補修するためには「脳動脈瘤クリップ」という洗濯ばさみのような金属で瘤を挟んでつぶすのである。そのためには全貌が見えないとできないのである。よって壁を壊すように、視神経管、内頸動脈硬膜輪を形成する頭蓋底の硬膜を切開し骨を削った。こういう部分の骨を削るには特殊なドリルを使う。歯医者さんで使うドリルを想像していただくと良い。先端が直径2mmのダイヤモンドドリルで、ゆっくりゆっくりていねいにていねいに骨を溶かすように削っていった。削った範囲は高々、6x5x4mm位である。でもこれで内頸動脈が頭蓋底を貫く部位が見え、破裂した部位の全貌が明らかになったのでクリップが掛けられた。チタン製でブレードが6mmの小さなクリップで破裂した瘤を挟みこれで再破裂は完全に防止された。

世界に名だたる「天才脳神経外科医」ならこんな手術は月に数回やっているだろう。私だって生まれて初めてではない。しかし、くも膜下出血超急性期、破裂した当日に頚部で動脈を確保しドリルで頭蓋底を削って、見る限りに置いてはほぼ完璧な手術ができた。術後の患者さんの状態も良く、麻痺は当然意識障害もなく、普通に会話が出来る。自分のような凡庸の脳神経外科医にとっては年に1回あるかないかという手術である。そこで「Surgery of the year」となったわけである。
去年は、多分AICA distal aneurysmの手術。これもくも膜下出血であるが、前下小脳動脈の末梢部という極めて珍しい場所。脳動脈瘤の教科書、手術書にも載っていないくらい珍しい。おそらく脳動脈瘤の破裂によるくも膜下出血では、2,3000例に1例あるかないか、という部位である。もちろん私にとっては20年目で初めての経験だった。これが去年のSurgery of the yearかな?

とにかく昨日の手術は、視神経と破れた動脈瘤の数mm脇で高速回転のドリルを使うという、大変緊張を強いられる作業の成功につきる。骨をドリルで削って硬膜をはがしていた1時間の間にものすごく疲れた。手は指先から右肩まで鉛のように重く今日も時々肩を回したり指を曲げ伸ばししてもまだ違和感が残る。その時の緊張は、たとえて言えば、普通の開頭手術なら普通道路を普通乗用車で走っているようなもの、顕微鏡手術ならば高速道路を高性能の普通乗用車で飛ばしているようなもの、昨日の手術はアウトバーンをF1クラスのスーパーカーで時速200〜300km/hで1時間飛ばしているようなものである。ちょっとミスると視神経を損傷して失明したり内頸動脈を損傷して大出血を引き起こしかねない場所で、「怖い、恐い」と思いながら勇気を出して前に進むしかなかった。誰も助けてくれない。自分だけが頼り。この病院には、こういう高度な手術を見たことがあり、方法は海外留学中にも大学在籍中にも勉強して知ってはいて、執刀したことはないが教授の手術で助手をした経験がある、というのは自分だけ。俺しかいない。誰も助けてくれない。この患者を助けられるのは自分だけ、と思って遂行した。
ちょっとカッコつけ過ぎか。本当にかっこいいのは、こういう高度で難易度の高い手術をこともなげにやってのけて「別に、普通のことですよ、、、」なんて言ってる方がずっとずっとかっこいいだろう。ま、僕は凡人だから。
いずれにしても肉体的にも精神的のもまだ疲れがたっぷり残っているが、手術がうまくいってよかった、という達成感と安堵感に包まれている。望むらくは、マッサージの上手な素敵な女性に優しく癒していただければ、、、(^^;;; な〜にいってんだか!である。。。(あ〜、でもマッサージ、、、仕方ない、自宅のマッサージチェアで我慢我慢、、、トホホ)
ただ、最後に付け加えると、1月27日の「株式会社A病院」という記事で書いたように、こんな緊張を強いられる難度の高い手術で頚部切開から全部終了まで含めると6時間くらい手術をしても、もっと脳表に近く易しくて2時間台で終わるような手術でも「脳動脈瘤」の「クリッピング手術」という病名、手術名なら値段は一緒なのである。すべて同じ。統一料金。画一化の極みである。別に難しかったからたくさん給料をよこせ!といっているのではない。素人には違いがわからないのだから、わかってもらうためには手術名、料金をもっと細かく分けた設定をするしかないのではないか、と思う。コンビニの弁当も老舗吉兆の松花堂弁当も値段が同じでいいのだろうか、、、

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コメント

初めまして。海外留学中の脳外科医です。いつも楽しく読ませていただいてます。血管内が専門なので、すっかりこういう緊迫したクリッピングのシーンから遠ざかっておりましたが、この記事を読んで、久々に「あの緊張感」が思い出されました。

投稿: Hideki | 2005.02.16 03:22

Thank you for your comment, Hideki-san! Where are you studing IVR? Are you living in LA?
Always welcome your kind criticism.
See-ya!

投稿: balaine | 2005.02.16 08:57

はじめまして いのげ ともうします

IC dorsalですか
ガクガクブルブルしちゃいますね
おつかれさまでした!

投稿: いのげ | 2005.03.01 20:51

inogesann, kon ni chi wa.
Comment ran ni nihongo ga kakikomezu komatte imasu.
Kongo tomo yoroshiku!

投稿: balaine | 2005.03.02 12:57

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