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2005.02.08

医師と個人情報保護法(2/8)

(2日続けて個人情報保護法のお話し)
 個人情報保護法は本年4月1日から実施される。タイミングの良いことに昨日病院内で勉強会が開催された。
 個人の情報を護ることは、プライバシーの保護として自由主義の国においては昔から当然のようにあるものであるはず。今回実施される法律は、昨今話題になった、カード会社や通販会社やどこかの役所などのファイルやらパソコンやらが盗まれて顧客や名簿の個人情報が漏洩した、または漏洩した可能性があり、それによって被害を受けている可能性もあるような事件が起こっていることに対して、個人の情報を扱っている企業や役所などの事業所に対し、「ちゃんとしなさい!」「ちゃんとしてなかったらお仕置きよ!」という法律が実施されます、ということである。
顧客名簿などの元になるデータの取得、その管理、使用に関して制限を設けまたは事業所内でルールを作ってそれを運用し責任の所在をきちんとして、何かあったら迅速に対応して必要な時は責任をとりなさい、ということである。
 では、これが医療機関、医師にとってはどのように運用されるのであろうか?
当然のごとく、個人情報は診療録をはじめとする患者さんのデータである。外来、入院にかかわらず、生年月日から住所はもちろんのこと、妊娠歴や病歴などたくさんのデータがある。しかも大量である。現在はまだ紙のカルテを使用している病院が多いが、近いうちに電子カルテが主流になるであろう。要するに、患者さんのデータはパソコンから取り込まれサーバに蓄積され、各部署で名前、ID No,とともに簡単に閲覧することが可能な訳である。これらのデータの取得、管理、メンテナンス、そして使用に関しては病院は一般事業所と同様に制約、責任を負うことになりそれを明確に形にしなければならない。
更に、いわゆる「カルテの開示」と言う言葉で表されるように、患者さんまたは代理人の求めに応じて患者さんの診療録を患者さんに包み隠さず全部見せなければならない。これまでも求めがあればそれを拒んでは行けなかったのだが、刑事事件になるか民事訴訟でも起こされない限り法制上開示の義務はなかった。今後は、開示の求めに応じないと行政処分を受けることになる。
 患者さんのデータ、すなわち診療記録や放射線フィルムなどはどのような目的で使われるのであろうか。ある症状を訴えたり救急で搬入された患者さんの、性別、年齢、血圧、脈拍、体温などの基本的バイタルサインから「主訴(患者さん自身の訴えではなくても、たとえば「交通外傷による頭部打撲後の意識障害」のようにも書かれる)、そして病院受診歴、IDカードや免許証、保険証のチェック(本人であるかどうかは大事、時に人の保険証で受診して薬を貰おうとする不逞の輩もいる)などから始まって、たくさんの情報を記録し、診察して記録し、検査をして記録し、結果を考察して記録し、診断(可能性の高いいくつかの診断の列挙も含む)して記録し、治療法を考察して記録し、治療法を選択して記録し、治療の結果を診察判断して記録し、今後の計画や予定を考えて記録し、外来なら次回受診を予約して記録し、、、と言う具合に「記録」「記録」の連続である。これら患者さんの診断や治療にかかわるすべての記録が個人情報である。
昔は、カルテやフィルムは病院のもので患者の私有物ではない、という概念であり、どこか他の病院に紹介する時にも、フィルムをコピーして患者にわたすなり、現物を先方の病院に「貸して」使い終わったら返してもらう、という考え方であった。今でもそう変わらないが、大きな違いは、カルテもフィルムも物自体は病院の物かもしれないが、「中身」は患者さんの物、患者さんそのものなのである。だから診断や治療のため(すなわち患者さんのため)といっても、どこかよその病院、他の医師に相談したり紹介したりする場合には、患者さんからその個人情報を人に教える(外に出す)ということの了解を得なければならないということである。自分のために医師がしてくれることに文句をつける人はいないだろうか?ほとんどいないであろう。でも「先生、B病院に紹介するとは聞いたが、病歴や診断のための写真も送るとは聞いていなかった!個人情報を患者の了解を得ずに勝手に外部に流しおろそかに扱った!」と訴える人がいたら病院側、医師側は負けるのである。世知辛ない世の中になったと嘆いては行けない。常に「性善説」にたてるのならこんな法律はいらない。人間は間違うもの。ミスをする。更に悪意を持ってすることもある。「性悪説」にたてば、個人情報はきちんと保護し管理されなければならず、それを怠った場合にその担当者や事業所は「あんたアカンヨ!」と非難され罰則を受けることを認めざるを得ない。
 このようにある特定の患者さんの診断や治療を目的に、その個人情報を外部に出すことは他にもないのだろうか?医学は科学の一分野であり、日々目覚ましく進歩している。それは基礎医学、臨床医学、社会医学の各分野で研究者(医師や看護師、薬剤師、技師、技術者も含む)が様々な研究をしているからである。そのために、学会があり、学術雑誌があり、論文がある。それらの学術発表には、匿名ではあってもある患者さんのデータが載せられることになる。「何月何日、突然の頭痛で発症し、C病院を受診」というような記載の仕方もあるし、「手術によって摘出された病変の病理診断はXXであった」というような記載もある。または何十例、何百例というマスの患者群の中の一例としてのデータであるかもしれない。そう簡単に個人の特定はできないであろうが、発表した医師、所属の病院、年月日、性別、年、病歴、病名などをたどって行けば、その気になれば個人を特定できないことはないであろう。だから「学会発表」という学術使用目的であっても、患者さんにその目的と方法、時期、場所などを説明し了解を得なければ行けなくなる。
 大変である。ただ「黙示的同意」というのがある。これは、あらかじめ入院時に渡すパンフレットの中に書き込んでおいて前もって患者の同意を得る、得られなければ医療上の契約が成立せず、入院や治療は行わないことになる。たとえば、「病院内での検討会」であるとか「関連病院(県内の大学病院など)への診断治療目的の紹介」などについて、いちいち説明するのではなく、前もって利用目的や方針をオープンにして(パンフレット、院内掲示、HPへの掲載など)黙示的同意を得ておいて、説明を求められた場合個別に対応する方法である。情報の学術利用についても、「医学・看護学などの学術研究に利用するため」などと記載してオープンにしておき「尚、上記利用について患者さんはいつでも説明を求めることが出来ます。ご意思に反する場合はお申し出があれば、その情報を利用しません。その場合でも従来と変わらず適切な医療が受けられます」というような「但し書き文」が必要となるであろう。
 更に、疾患が悪性腫瘍で患者さんにすべてを知らせることが治療上有益ではないと考えられる場合や、患者さんが意識不明であったり植物状態であったり瀕死状態であったり、酒や薬で前後不覚であったり、身元が分からなかったり、家族がいなかったり、友人もいなかったり、様々な状況が発生しうる。患者さんの情報は患者さん個人の物であり、プライバシーを保護する観点から患者以外の人に病状や診断名などを話すことは注意深く行う必要がある。正しくは、患者以外に話しをすることは患者さんの同意書を得ていなければならない。法定代理人のような法律上認められた代わりの人でなければならない。「家族」といっても定義が難しい。一般的には、妻であり、子であり、親であり、同居している血縁関係なのであろう。しかし「家族」が患者の味方とは限らない。「親類」や「友人」が患者のために動いているとは限らない。それぞれのケースで臨機応変で適切な対応が求められる。
 当然のことと言われれば当然かもしれないが、すでに日常診療業務+時間外労働+様々なプレッシャーで疲弊している医療者に取って、さらに気持ちの重くなるような法律の実施なのである。しかし、これは世の中が正しい方向に向くための一つのステップと考えて明るく楽観的に捉えて対処して行きたいと考えているこの頃である(フ〜〜ッ)(^^;;;

p.s. 診療記録開示のために、記録は読みやすい文字で、言語は日本語を推奨しているらしい。医者は悪筆が多いし、英語、ドイツ語、日本語混じり文で書くことが多い。どうなるのかな〜?(電子カルテになったら、全部ワープロだし関係ないか、、、しかし医学のartの部分、芸または芸術の部分がごっそりそぎ落とされるように感じるな〜)

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コメント

はじめましてミドリと言います。ブログ見せていただいて大変勉強になりました。今後ともよろしくお願いします。

投稿: ミドリ | 2005.02.11 20:41

ミドリさん、コメントありがとうございます。
お返事遅くなりすみません。今日も緊急手術してました。まだ夕飯食べてません、、、

投稿: balaine | 2005.02.14 22:55

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