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2005.02.07

個人情報保護法と医療(2/7)

 人はそのプライバシーを護られ、プライバシーの侵害があった際には訴追することができる。
医療においては、患者さんという一個人の情報がたくさん必要になる。的確で安全で迅速な診断や治療のために必要な情報以外に、有事の際に家族や知人に連絡をとる必要があったり、患者さんに支払い能力が欠如していた場合への対応などにも必要になりうる情報として、住所、電話番号、家族や知人の携帯の電話番号などを聞いて記録する事がある。また、診断や治療に必要になりうる情報として、出生地や育った土地、婚姻の有無、女性なら妊娠歴の有無も聞くし、普段の食事の内容、これまでに受けた、または受けている治療の内容などもネ掘りハ掘り聞く事が多い。
 診療録というのは患者さんの個人情報の塊である。法律が実施されるから、ではなく、これまでだって注意深く取り扱うのが当然のものである。患者さんの求めに応じて診療録を開示する義務が医療者側にはこれまでもあったが、法律で罰則規定が設けられて今年4月から実施される事になるのが「個人情報保護法案」である。本日付けの某全国紙のニュースとしても取り上げられていた。
その一部を取り上げると、
『患者が診療記録を手にすることができれば、医師の方針に対しても明確な説明を求めることができるようになることから、国の大きな課題となっている医療費の抑制にも寄与しそうだ。』
『レセプトや診療記録の開示は国民全体の医療への関心を高め、結果として過剰な医療や無駄な投薬などを減らすことにもつながる。』
『患者がカルテやレセプトを入手することで、診察内容や診療費用をチェックできるようになるため、医療の透明化や適正化が大幅に進み、医療費の抑制にもつながりそうだ。』

なんだ?!と思った。
「医療費の抑制」と言う言葉が繰り返し出てくる。まるで戦時下の洗脳目的のシュプレヒコールのようではないか。どなたが書かれたのか知らないが、「医療費が増大しているのは、無駄な検査や無駄な投薬が多いからだ。それは、医者が患者に内緒で隠れてこそこそ悪い事をして金儲けしようとしているからであって、それを白日の下にさらせば悪い事できないから医療費も軽減できるでしょう!」と言っているように解釈できませんか?
確かに世の中には悪徳医師もいるであろう。「儲ける」ために検査や投薬をする人もいるかもしれない。しかし、医療費が増大している一番の原因は、医療が進歩しているからなのである。
20年前に医療用MRIはなかった。30年前にCTはなかった。40年前に手術用顕微鏡はなかった。昔は診断がつかなかった病気が瞬時にわかる装置が開発され、それが全国に普及し、それに伴って治療法も選択の幅が増え、治療成績も向上し、よって国民の健康の維持と増進に寄与するところ大な訳である。
この進歩を無料で成し遂げられる訳がない。MRI装置は標準的なもの一台で2億円ほどするのである。脳神経外科用の手術顕微鏡は安いもので1500万円くらい、ナビゲーション装置や内視鏡装置などを内蔵するような最新型のものは4,5000万円するのである。しかもそれらの器械はだいたいが5年で時代遅れ、でも買い換え更新するのに10年はかかるものである。2億円の器械を10年、ということはランニングコストを無視しても年に2000万円かかる。MRIの検査一回で15000円医療費を請求できるとして、元を取るためだけで年に1300回以上の検査が必要である。週5日で計算して実働一年260日。すると一日6回は検査をしないと元もとれない。これぐらいの数は午前中だけで十分こなせるが、これはMRI装置の調整や点検のための休みとかランニングコストを無視しての計算である。結局、高い最新鋭の機器を購入してフル稼働させても、10年かけて元をとるのが精一杯くらいで儲けにならないのである。しかも中医協ではMRIなどの検査手技料をどんどん値下げする方向にあるようだ。
世界的にもトップレベルの高度で先進的なそして安全で確実な医療を実施しているから、日本人は世界でも最たる長寿の民族であり、衛生状態が良く、あらゆるレベルで世界に進出できる国家、国民になっているとは思わないのだろうか?健康であるから何でもできるんですよ。「医療費の増大が国の大きな課題」、なるほど、では医療費を削減して医療のレベルが下がったり治療が不十分になって、国民の健康が損なわれる事もありうるけど、国としてはそれでいいんですかね?

先日の記事でも書いたように、「心配だから」「不安だ」「詳しく調べてほしい」という「患者様」の求めには医療者は応じない訳にはいかない。そしてそれが高額な医療費の一端となっている。こういった側面を無視して、「医者が悪いことしているから医療費が高騰しているんだ」的な論調は、定評(?)ある全国紙の記事としてどうなのであろうか?まあ、医者を叩き一般市民側の不満の気持ちをあおる(不況なのに医療費がかさむ!医者が悪い!)ような記事さえ書いていれば多くの読者が喜ぶから、という新聞の購読者を増やしたいという「物売り」の論理から出ているものだろうから寛容な心で見逃してあげたい。良識ある、見識の高い「新聞人」、「記者」というプライドや勉強に裏付けされた知性の感じられない新聞記事が多いのは仕方のない事なのか、、、

記事には更に
『「患者の権利オンブズマン」全国連絡委員会代表の○○弁護士は「カルテなどの開示義務によって、医師と患者による診療情報の共有が当たり前になれば、医療の透明性は格段に向上する。情報開示に消極的な医療機関は評価されなくなるため、不適切な医療も減り、患者の病気への認識も高まるだろう」と話している。』
と書かれていた。この辺りはもっともな事ではある。しかし「医療機関」とひとくくりにしてもいいのだろうか?診療科によって特性があるのだ。脳神経外科などは、「人が人たる所以の臓器」である脳を扱うため、何十年も前からinformed consentという考え方は当然であった。科によっては、伝統があるばかりにそれを踏襲しなかなか近代化できな面を持っていたり、性に関係する疾患などのように個人情報の扱いをより慎重にしなくてはならない科もある。
不適切な医療が減るためには、医療を受ける患者側の心が大きく変化する事も必要である。そのためにも現行の護送船団方式の健康保険制度の見直しが是非必要なのである。
 個人情報の話しから離れてしまったが、個人情報の件は難しい事を含んでいるのでもう一度あらためて記事を書きたい。
最後に、先に引用した新聞記事の中から再び、
『医療費は毎年増加し続けている。平成十六年度は予算ベースで二十六兆円で、平成三十七年度には倍増以上の五十九兆円が見込まれている。レセプトや診療記録の開示は国民全体の医療への関心を高め、結果として過剰な医療や無駄な投薬などを減らすことにもつながる。』
情報開示(これは医療機関には大きな関心事であるが、今回の法律実施による開示を拒否したりすると罰則があるのだ)をすれば、国民の医療への関心が高まるのだろうか?医療への関心が高まると過剰な医療が減るのだろうか?頭痛で不安な患者さんに最新のMRI検査を行う事は、「無駄な」医療行為なのだろうか?私は無駄な医療を行っている悪い医者なのだろうか?
上記の記事を書いた記者の方にお聞きしたいものである。あなたが強い頭痛に悩まされて病院で診察の結果、「ストレス性の頭痛」と診断された際に、「もっと詳しい断層検査とか必要ないのか?」と医者に問いただすと、「医療費の抑制のためストレス頭痛と診断した方に「脳腫瘍の疑い」などと病名をつけてMRIを行う事は禁止されています」と言われたら「はい、わかりました」と言えるのだろうか?

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受信: 2005.02.08 20:28

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