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2005.02.04

脳ドックなどなど

今日、軽い脳梗塞で入院中の方に質問された。
「妻も脳卒中を心配しているが、どんな検査を受けたらわかるのか?」
何か検査で将来脳卒中になる危険性があるかどうかを調べるとしたら、脳MRI、頚部頸動脈のエコー、心電図、血液検査などがまずあげられる。これらは、通常、「脳ドック」の看板を掲げているところではほとんどの施設でやっている。だから、脳の病気、脳卒中などが心配な方は「脳ドック」を受けると良いと思う。
 ところで、脳ドックなどはいわゆる健康診断であり、本来健康な方が健康である事の確認、万が一に身体に自覚症状のない異常がないかどうかをチェックするものであり、「病気」ではないのだから「健康保険」が効かない。すなわち「全額自己負担」である。
 脳のMRIが正確にいくらかかるのか知らないのだが(自分でお金を取っている訳ではないので)、フィルム代を含めて保険本人の3割負担の人が5000円くらい払うのだから、10割負担なら15000〜20000円くらいかかるはずである。「脳ドック」と一口に言っても、行う施設、行う検査、入院の有無、食事、その他の付随するもので値段には相当な幅がある。私が知る限り、安い脳ドックは半日コースで35000円くらい、高いのになると1泊2日で16万円くらいとなる。何が違うのかと言うと、行う検査の数、項目が違うのである。安いものは脳MRIと診察だけのものもある。
 会社や役所などでドックに対する援助金が出る事がよくある。そのため例えば5万円の脳ドックでも、自己負担は2万円くらいになったりする。いずれにせよ、数万円から高いと10万円以上払わなくてはならない。日本人は、医療は安いもの、健康は安く買えると思っているのか、10万円もかかると聞くと「うわ〜、高いな。じゃ、いいです、、、」となる事が少なくない。確かに「安い」とは言えない。しかし、自分の健康を買うためだと思えばそんなに高いのだろうか?

 ところで、昨日の「頭痛、、、」の中にも書いたように、ストレス頭痛と思われる人にも念のためにMRI検査を行う事はよくあるのが現実。でも脳の断層写真は、「頭痛」では保険が通らない。その場合、医師は「脳腫瘍の疑い」「脳血管障害(=脳卒中)の疑い」などのように「疑い」病名を付ける。すると保険組合支払い基金の方では、「脳卒中を疑って検査したのだから保険での支払いを認めましょう」ということになって、前記のように約5000円で脳MRIを受ける事が出来るのである。
 すると、最初に質問のあった患者さんの奥さんも、「頭が痛いので脳卒中が心配です」といって脳神経外科外来を受診し「脳のMRIを撮ってほしい」と言うと、我々としては断る理由はない。「脳卒中の疑い」という病名を付けて検査を予約する。結果は、たいていの場合、「良かったですね。これだけ詳しく検査してみましたが、断層でも脳MRAという血管を写す検査でも何も異常はありませんでしたよ」ということになり、患者さんは「よかったです。さようなら〜」となる。
 
 ここに潜む問題は、約15000円の脳MRI検査に対して保険本人3割負担で、「頭痛のみ」の患者さんは5000円払っただけ。残りの10000円は、サラリーマンなら給料などから自動的に天引きされている「健康保険料」をみんなで積み立てて作っている保険組合から病院に支払われるのである。
 つまり、皆さんのお給料の中から取られているお金で、「心配だから」「念のため」「旦那がなったから自分も心配で」という人たちが安心するための医療費を7割肩代わりしてあげている訳である。護送船団方式の極みである。別に脳の検査のようなものでなくても、軽い風邪でもすぐ医者にかかり、風邪薬に抗生物質、解熱鎮痛剤にうがい薬までたっぷり貰って行く患者さんがいる。たくさん薬を貰わないと気が済まないらしい。その人の薬代の7割は、病院にも行かず働いている皆さんの給料から自動的にひかれて行く健康保険料から出ているのである。

 これを「おかしい!」と思いながら「本当におかしいぞ!こらっ!」と声を上げる人は少ない。我々医師が、万一、そういう患者さんに、「あなたの医療費の7割はみんなが払っているんだから、「心配だ」だけで脳のMRI検査なんかできません。あなたの頭痛はストレス性です。」などと『正論』を述べようものなら、「あそこの医者は不親切だ!」「あの医者は嫌いだ!」ということになり、あげくの果ては「患者様の声」などという目安箱の中に、「脳外科の○○医師は患者の事をバカにしている」とか「不親切で不快である。二度と来るものか!」などという投書が投げ込まれるのが落ちなのである。
 わたしなどは「言いたい」ほうだから、言わなくてもいい事をつい患者さんにも言ってしまう方である。それでもグッと耐えながら、「あ〜そうですか、じゃあ、MRIの予約をしましょうね。まず心配ないので緊急性はありませんから普通に予約しますね」などと少々嫌みっぽい発言をしながらMRIを「撮ってあげる」感じになる。患者側としては、しかし、MRIを「撮っていただく」などと考えている人は少なく、「医者がいうから脳のMRI検査を受けてやる。金は払ってるんだ!」みたいな感じの人が少なくない。

は〜。いつの間にか、「愚痴」になってきたのでそろそろやめよう。健康保険にかかわる問題点は、まだまだたくさんあるのである。
とにかく、脳の病気が心配な健康な方(自覚症状のない人)は『脳ドック』を受診しましょう!

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コメント

時々、生活音がピアノの音に聴こえるのですが・・精神科でしょうか(笑) 
コラム、大変参考になりました。更なる春秋の筆法を期待しております(^^)

投稿: 恵太 | 2005.02.04 19:29

「生活音がピアノの音」ですか〜?
そういうのは「才能」というんじゃないでしょうか?

生活音が楽譜に替われば、作曲も楽では?なわけないか、、、

投稿: balaine | 2005.02.04 19:37

作曲は恐らく春秋に富んだbalaineさんの方が早く開花するんじゃないでしょうか。これも期待してます!

投稿: 恵太 | 2005.02.04 21:43

もしかしたら、過去の書き込みをまだ見ておられないかもしれないので・・・はじめまして、ガルボと申します。kuuさんのところからきました!

そうですね・・・
なんか考えさせられますね。でも、患者としてはやっぱり、健康保険が使えるほうがいいと考えますよねぇ・・・
去年は、医療者の端くれでありながら、自分のこととなると、かなりの心配性になり、沢山検査をしたくなったり、検査を受けるのにかなり緊張したりして、自分の弱っちさを実感した年でしたので、何だか身につまされる感じがします。

ところで、フルートはお買いになりましたか?

ってコメントを以前つけた記事はどこへ行ったのでしょうか?過去の記事を読む方法を教えてくださいませ。

投稿: ガルボ | 2005.02.05 13:06

ガルボさん、こめんとありがとうございます。
先日のコメントも読みました。レスつけなくてすみません。
先日のコメントは、1月23日の記事「まいった〜!」についております。見方ですが、このページの上の方も右側に「最近の記事」というのがあります。その一番下の記事をクリックしてください。するとクリックされた記事が開くとともに、タイトルの上に、「その前の記事」と「その次の記事」およびトップ(最新の記事)に飛ぶようになっています。
一番安い(無料の)cocologでの設定なので、右側のカレンダーも当月しか表示されないようです。不便ですみません。よろしくお願いします。

フルートは、、、、まだ買ってません。(^^;;;

投稿: balaine | 2005.02.06 13:11

こんにちわ★
あなたのサイトをランキングに参加しませんか?
ランキングに参加すると見てくれる人が今以上に増えますのでお得です(^^)/
ではこれからも頑張って下さい☆

投稿: 人気BLOGランキング | 2005.02.06 14:35

わかりました!
丁寧なお返事ありがとうございました。
これからもちょくちょくお邪魔いたしますので、よろしくお願いいたします!

投稿: ガルボ | 2005.02.07 01:18

脳ドックで検索したらヒットしたので読みました。

いやー、まさに仰るとおり、我々サラリーマンが積み立てた健保のお金で、必要もない薬代や安心の為の検査に7割も使われてるんですね~。

私も頭が心配なので脳ドック行って来ます。

これからも正論を主張し続けてください。

投稿: ドナルド | 2006.11.28 11:22

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