無念、、、
入院中の患者さんが亡くなられた。病院の中では日常のことであるし、脳外科の患者さんが急変することは稀なことではない。でもショックで打ちのめされそうだ。
その患者さんは、昨H16年の8月に脳幹梗塞で入院し、一時は挿管、人工呼吸で生死の境から復活し、気管切開もしていた。大脳の機能は正常なので脳幹梗塞で呼吸不全になっても意識はしっかりしていた。意識清明で人工呼吸器に繋がれたり、気管切開して声が出せずどんなにつらかっただろう。でも私が行くといつもニコニコしておられた。とても真似ができない、と頭が下がった。看護師さんにも人気があり、ベッドの脇にはICUやHCUから病棟に移動するたびに「○○さん、頑張って下さい!」と看護師からの励ましの紙が貼られていた。ものすごく頑張り屋で、気管切開状態や鼻から胃に通した管での経管栄養を行っているときも、ほとんど文句を言わず前を向いて頑張っておられた。そういう患者さんにはこちらも一生懸命治療をしてあげたくなる。今年に入り、管も取れて口からご飯が食べられるようになり、喜んでおられた。リハビリも進みあと1ヶ月ぐらいで独歩で自宅退院出来そうであった。7ヶ月近い入院闘病生活である。家族も喜んでおられた。なにより辛いときにも辛そうな顔を見せず、ニコニコして頑張っておられた患者さんが一番喜んでいた。
それが深夜に急変した。心肺停止状態で病棟から連絡を受け10分以内に駆けつけ、看護師が行っていたBLS(Basic Life Support)から挿管し人工呼吸器に繋いだ上、心臓マッサージを続けた。心臓を動かす薬も何回も使い(ACLSに則って)、ボスミン心腔内注射の上の心臓マッサージも続けた。
脳出血など脳の病気で脳の生命中枢が障害されたときはどんなに蘇生を頑張っても助けられないものは助けられない。だから20分も蘇生をしてダメなときは、残念ながら死亡を宣告する。その患者さんは、脳幹梗塞で呼吸不全ではあったが、あんなに元気で昨日(土曜)の夕方会話したときもニコニコしておられた。なんとしても心臓を動かしたい。「ダメか〜」と思いながら合計1時間20分、心臓マッサージを続けたがついに心拍は再開せず死亡宣告をしなければならなかった。心マは看護師3名と交代でおこなったのでその疲れと言うよりは、助けられなかった無念さで、家族に説明し宣告するときに立っていられなかった。患者さんのそばにしゃがみ込みながら話をした。「助けられなくてごめんなさい、、、」
人生には限りがあるし、動物はいつかは死ぬ運命である。病気に倒れ懸命に闘病しても助からない人はたくさんいる。この患者さんもそういう運命だった、のかもしれない。しょせん、人が人の運命を変えるほどの力は持ち合わせないのだろう。でも助けたかった。
「助けられなくてごめんなさい、、、」
と奥さんに言ったら「先生にはあんなにいつもいろいろしていただいて感謝してます、、、」と言われ涙が出そうになった。どうぞ安らかにお眠り下さい。ありがとう、、、○○さん、、、
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コメント
こんにちわ。
balaineさんがこの患者さんを助けられなかったことに対する無念さがとてもよく伝わってきました。
ただ、この患者さん、そして家族の人はとても幸せだったと思っていると思います。
自分のために全力を尽くして診て下さるお医者さん、自分の命が左右されるようなときに誠心誠意尽くしてくださるお医者さんとの出会いに満足しておられると思います。
投稿: ほたる | 2005.02.22 11:16
Hotaru san,
Comment ran de Nihongo ga atukaezu konnna katachi de gomen nasai.
Kongo tomo yoroshiku!
See-Ya !
投稿: balaine | 2005.03.02 12:59
身につまされました。そんなにして貰えるなんて。今一人戦っている主人がいます。1月4日に意識不明になり未だ気がつきません。脳幹梗塞だそうです。まさか人事と思っていたことが私の身に降りかかって牙をむく。さっきまで元気だった人、10分で救急病院へ到着したのに、なぜ助からないの?現代の医学で。
ベットに寝てる主人は生きているんです。話しかけて看護して下さい。同じ働くのにその身になって、看護してください。
投稿: 治子 | 2006.01.20 23:02
治子さん、はじめまして。なんと言葉をかけていいのやら。
想像に過ぎませんが、ご主人は残念ながら大変厳しい状況にあるものと推測します。でも家族の方が面会出来る間だけでも手を握ったり声をかけてあげて下さい。医師や看護師はひとりひとりに感情移入している余裕は、申し訳ありませんが、ないのです。患者さんを自分の愛する家族と思って接し扱うのが理想です。しかし、全員にそれを期待する事は難しいです。
もし真剣に期待されるのなら、医師も看護師も2倍以上の人員にして勤務体制を変えてもっと働く我々に心の余裕が生まれるよう工夫する必要があります。その代わり、医療費は今の数倍にならなければ病院も健康保険組合も国も採算が採れません。
しかし、国の方針としては「医療費削減」。つまり、口では「患者中心の医療を展開するように」と政府は言いながら、実情は手間をかけない、ファストフード的医療を要求して来ているのです。もしも、今以上に手間もかけるが料金も安くする、というのでしたら、現状以上に医療職のボランティア精神に期待するという、精神論で迫ってくるのかもしれません。
話しがそれてすみません。2週間以上たって意識が回復していない状況はかなり厳しいと言わざるを得ませんが家族の方が望みを捨ててはいけません。頑張って下さい!
投稿: balaine | 2006.01.21 16:34