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2005.02.18

内科的治療をする外科医

脳神経外科医というのは、外科医なのだから手術するのが仕事。今日も破裂脳動脈瘤によるくも膜下出血の手術だった。
今日の症例は、「マイナーリーク」といって、強い発作性の大出血ではなく軽く漏れるような出血を数回起こした患者さん。外来に自分で歩いて受診し、頭痛というより「頭が急に冷たくなった」後に吐いたという症状を訴え、CT上もくも膜下出血はなし(うっすら動脈瘤らしき陰があった)。腰椎穿刺といって、腰の所から脊髄に針が刺さらないように脊椎腔から脳脊髄液を採取すると、赤みのある薄い血性髄液で診断がついた。
前交通動脈瘤という一番頻度の高いところだが、右脳と左脳の間に埋もれてしかも数回の小出血のため癒着が強く手術は難渋したが何とか成功した。

最近、冬にはなぜかやはり脳卒中が多い。
日本の脳神経外科医は、脳卒中を診る。欧米の脳神経外科医は診ないのか、というとそんなことはないが、脳血管障害を専門にしている脳外科医だけが主にくも膜下出血を診ている。脳梗塞は診ない。これは内科の病気である。イギリスなどでは、くも膜下出血ですら内科医がまず診る。家庭医、内科医、専門外科医という順番が守られていてそのあたりの手順が厳しいらしい。
軽いくも膜下出血の人が、歩いて来院し脳神経外科医の外来を受診するなんてことは、欧米ではまずあり得ない。内科医が診る。多分、今日手術した患者さんは普通の内科医が診ていれば診断できないだろう。診断どころかCTを撮ろうとも思わないかも知れない。撮っても多分予約検査で「来週の末」とかになりかねない。それまでに間に大きな出血を起こして具合が悪くなったり命を落とすかも知れない。

現にイギリスの内科に入院したくも膜下出血の患者さんが、どういう風になるかというと、HCUで点滴を受けながら元気なら食事も食べ、CT上のくも膜下出血の原因を調べる「脳血管撮影」が来週後半に予約され、それを待っている間に食事中再破裂し嘔吐し食事のお膳に顔を突っ伏して倒れる、そして重症のため手術も出来ずそのまま寝たきりか死亡、ということになるのも珍しくないようである。アメリカ人の脳神経外科医がイギリスに研修に行って驚いた、と書いていた本にこのような実態が書かれていた。欧米の脳神経外科医の仕事は、まず脳腫瘍、その次が脊椎、脊髄の外科である。その他、脳動静脈奇形、先天奇形の手術などをたくさん行っている医者が多い。脳卒中の手術もしているが、日本のように発症当日の超急性期に手術して再破裂を防止しくも膜下出血の治療を積極的に行っている脳外科医が全国津々浦々にいる国は珍しいと思う。
日本の脳外科医は人口比にすると世界一多いのである。人口2億5千万のアメリカに脳外科専門医は7000人くらい。半分の人口の日本に、脳外科専門医は5,6000人、非専門医を合わせると7,8000人いる。しかし、我々の仕事はいっこうに暇にならない。それは全国津々浦々に散らばって、中小規模の病院で2人、3人くらいの脳外科医が脳梗塞を中心とする内科的治療の脳卒中もほとんど診ているからである。現に、うちの病院でくも膜下出血の手術は年に20〜25位しかないが、脳卒中の患者さんは年に270〜300名入院している。その6割が脳梗塞で3割が脳内出血、そして約1割がくも膜下出血である。これでもうちの病院は神経内科医が二人いて脳梗塞も診ているので、我々は少し楽な方かも知れない。田舎の脳外科医は、毎日のように脳卒中の患者を入院させ内科的治療をしている。「外科医」なのにである。

「日本脳卒中学会」という会と「日本脳卒中の外科学会」という会がある。前者は内科医が中心になり、後者は当然脳外科医が中心になる。「日本脳卒中学会」は神経内科医が多く参加していて、「日本神経学会」の会員が多い。この「日本脳卒中学会」で「脳卒中認定医」制度を始めた。最初、脳神経外科医は脳卒中認定医の資格が取りにくい状態になった。脳神経外科医で脳卒中を扱っている医師は、多くが「日本脳卒中の外科学会」には入るが「日本脳卒中学会」には入らない。内科的治療や動物実験などの研究が発表の中心になる学会であるので、「こんな難しい手術をした」「こんな難しい症例をこのように手術で成功した」「新たな手術方法で治療を行った」などといった発表は「日本脳卒中学会」ではお目にかからないからだ。
ところが「日本脳卒中学会」の会員でなければ「脳卒中認定医」にはなれない。学会が「認定」するのだからその学会のメンバーでなければならないのだ。脳卒中認定制度が出来ると聞いてあわてて「日本脳卒中学会」に入会しても会員歴が短いと認定医にはなれない。すると、普段全国でたくさんの脳卒中患者を診断し治療し手術している脳外科医が脳卒中認定医をとれず、言葉は悪いがネズミの実験で脳卒中の研究をしている内科医が「脳卒中認定医」になってしまうという変なことになりうる。
そこで脳神経外科学会と脳卒中の外科学会が声を上げて、「日本脳神経外科学会の認定専門医で、日本脳卒中の外科学会の会員歴がある期間以上あれば、最近日本脳卒中学会に入会しても、脳卒中認定医の資格申請をすることができる」という風に変わった。これで私も「日本脳卒中学会認定脳卒中専門医」の資格も取れることになる。

日本の脳神経外科医は、毎日内科的治療をたくさんの患者に行っている医師なのである。
(そうそう、もちろん心身症や神経症による頭痛の患者さんも診ています)

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